SHORAKUSHA

終わりがないフィルムのように続く、ある風景の備忘録

震災遺構仙台市立荒浜小学校前/仙台市交通局

 

宮城県仙台市若林区にある折返場

 

 

人の暮らしが消えた場所にも、バスはゆく。

 

どこまでも広がる荒涼とした空地の片隅、かつて周囲に存在した暮らしの記憶、そのよすがをつなぎとめるがごとく、毅然としてそこに在る建物。

 

震災遺構 仙台市立荒浜小学校

 

その敷地に隣接する形で、折返場がある。

折返場自体は、ただ砂利を敷き詰めただけの空間である。

ここまで乗ってくる人間のほとんどは小学校が目的であろう。

 

震災前から荒浜地区へは仙台市中心部から仙台市営バスが乗り入れており、当時はより海際の、貞山堀を超えた集落の中にある深沼バス停まで入っていたのだという。震災前、深沼の海岸は仙台市唯一の海水浴場として賑わった場所で、地域外の人間でも深沼までバスで行ったことがあるという市民は多かったのではないだろうか。

 

震災後、運ぶ景色を失った路線は、しばらくの間より内陸の南長沼での折り返しが続いていた。2016年には1日限定で仙台駅から深沼海岸へのバスが臨時で復活するなど、荒浜地区への路線への思いは、荒浜に住んでいた人々は当然のこと、そのほかの市民にとっても強いものがあったのであろう。

 

その後、深沼海岸から500mほど内陸にあり、被災しつつも倒壊を免れた旧荒浜小学校の保存公開が決まり、2017年のオープンと同時に、南長沼から路線を一部復活させる形で地下鉄東西線荒井駅から再び旧荒浜小学校まで路線バスが乗り入れることとなった。

 

2023年からは地下鉄東西線荒井駅発着で小学校や隣接するJRフルーツパーク仙台あらはまの他、震災後完成した海沿いの観光施設を巡回する「せんだい海手線ループバス」の実証運行も行われ、震災前とは異なる形での観光振興、そしてバスの乗り入れが行われるようにもなっている。

 

当然のことながら、震災以降、荒浜の地区は災害危険区域に指定され、居住をすることは不可能となった。小学校の屋上から荒涼とした景色を眺めながら、埋立地でもないのにそこに確実にあったはずの土地の歴史がすっぽりと抜け落ちてしまっているような違和感、そしてもうその歴史や風景、暮らしを取り戻すことができないという取り返しのつかなさになんともいえぬ寂しさを思う。

大切にしなければいけないはずなのに、その記憶を確かめることすら覚束ない不安。荒浜小学校は本当の意味で最後の「よすが」なのだと、これが過去を確かなものにする唯一の手掛かりになるのだと思った。

 

仙台市営バスは路線の案内に系統番号を導入しながらも、ダイヤ改正等の広報にはしばしば旧来の「路線名」が登場する。

荒浜小学校に入る路線は現在でも「深沼線」と呼ばれている。かつて人々の暮らしがあり、路線バスを必要としていたその土地の名を、静かに伝え続けている。

 

【参考Webページ】

・車窓から見えたのは「震災後」に生まれた景色だった 荒浜に1日限りバス復活

tohoku360.com

 

・「せんだい海手線ループバス」運行開始 荒井駅発着、アクアイグニスなど循環

「せんだい海手線ループバス」運行開始 荒井駅発着、アクアイグニスなど循環 - 仙台経済新聞