SHORAKUSHA

終わりがないフィルムのように続く、ある風景の備忘録

2018/07/10 鴻巣から加須にいく。

2018年7月10日。

新宿駅4番ホームは、遠出のにおいがする。

 

東京の西側に住んでいる人間だから、新宿駅に出て、そこから遠くへといざなってくれる列車で、真っ先に思い浮かぶのは湘南新宿ライン北行きだ。

そんなわけで、起き抜け、空を見るとどこまでも続く青い空に心が湧きたつ、けれどとりたてていきたい場所もないという朝は、気づくと新宿駅4番ホームにいることが多い気がする。宇都宮方面か、高崎方面か、川越方面かは、もはや「列車の運」。

 

そんなわけで、この日も無計画に籠原行きに飛び乗ったけれど、赤羽も、浦和も、大宮も、宮原も違う気がする。上尾もその後動くにしても行程が描きづらい…と思っているうちに上尾を過ぎる。選択肢が狭まっていく中、Googleマップとバス路線図を眺めながらあれこれ行程を練るのは心地よい緊張感がある。

そのうち、行程が少しずつ見えてきた。鴻巣で下車し、バスで加須、電車で羽生、行田、熊谷と回り、湘南新宿ラインでとんぼ返りだ。秩父鉄道の未乗区間も消化できるのでちょうどいいかもしれない。

 

鴻巣で列車を降りる。

 

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レトロなお天気予報装置。意外とアナログなシステムのもよう

鴻巣は以前にも来たことがある。

この辺りになると少しずつ首都圏の郊外という趣を脱しつつあって、のどかな雰囲気が駅前に漂い出すが、それでも平成に入ってから駅前再開発を行って、ちゃんとテナントが集まったモールが建てられるのだからこの勢いは間違いなく首都圏のソレだ。

再開発ビル「エルミこうのすショッピングモール」は鴻巣駅舎に直結しているが、改札の目の前、都会的なニューデイズの横に味のある駅そば屋「中山道」が駅構内にテーブルを出しているし、向かいには鴻巣市商工会の特産品紹介のガラスケースが置いてあったりする。こののどかさと都市の勢いの共存が、埼玉らしさという感じがする。

 

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おじさんがのんびりそばをすする横を、若い人たちが足早に改札を抜けていく

鴻巣で降りた時点で、もう暑さが一般的な「それ」とは違う。こもったような、逃げ場のないような全身で受ける「熱い空気」。これが関東平野の厳しさだ。クーラーのない駅構内でそばを食らう気持ちにもならず。冷房の効いた「エルミこうのす」で昼食を探す。モール内で見つけたアジアンダイニング(?)でトムヤムフォーを食べて午後の酷暑に戦うべく準備だ。

それにしてもインドのカレー系を中心として、上記のようなタイやベトナム系のメニューもそれなりに充実しているのがおもしろい。日本慣れしてそうな現地人シェフが「失礼します」とだけ言って出てきてトムヤムフォーは、香草が効いているような、日本ナイズされていない独特の風味で非常に勉強になる。セットのチャーハンもスモーキーな味わいで、これはこれで日本ではなかなか出せない味だ。厨房で現地語が飛び交うのはこういう飲食店でよくある光景だが、彼らは一体どういう経緯で埼玉の鴻巣で飲食店をやるに至ったのか、聞いてみようとちょっとだけ思ったがやめた。

 

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現地の味を知らないが現地の味なんだなこれが(と思うことにした)

 

13:33、加須車庫行きの朝日バスに乗車。

鴻巣はバス乗り場がわかりづらい。1番乗り場から4番乗り場まで見ても加須行きの乗り場が無い。1番乗り場は高速バスの乗り場のようだが……と思案に暮れていると、少し離れたところに列ができているのを見つけた。不審に思って近づくと、柱の裏側に加須行の時刻表が張ってあった。ここにも1番乗り場と書いてあり、1番乗り場が2つある仕様になっているようだ。番号を振る意味というのを考えてほしいところではある。

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2017年5月訪問時の鴻巣駅前。この左側(タクシーの奥)から加須行が出るのだけど…

炎天下バスを待ちながら「加須はここですか」と聞いてきたおばあちゃんと「複雑すぎる」と愚痴をこぼしあう。おばあちゃんは前にクルマで通って気になった酒造に行ってみるのだそうだ。クルマの移動はとにかく便利で予定の弾力性も高い。けどそういう突然気になったものへの対応力はすこぶる悪い。クルマは機動力に関しては思ったより弱い。予定を決めないでふらつく方が性に合うから、実はクルマで旅行するのは向いてない。自分にとっては。

鴻巣には埼玉県の免許センターがある。駅前から東へまっすぐ進んで2km弱のところにあるのだが、そのせいもあって鴻巣駅東口に入る路線バスは原則免許センターを1回は寄る形になっている。加須行の場合は免許センターを始発にして、鴻巣駅に寄ってから北へ進路を取る。なのでやってきたバスには免許取りたて(更新したて)と思われる若者が多く乗っていたが、鴻巣駅で全員降りてしまった。もはや直通させる意味がなさそうでもある。

加須行には15人くらいが乗り込む。意外と乗っているなあと思ったり。酒蔵おばあちゃんは途中の騎西町で降りるらしい。

使われ方は完全に首都圏のバスだが、なんだかのんびりしている。酒造おばあちゃんは手を置く位置が悪いのか、降りるつもりがないのに降車ボタンを押したりする。普段降りる人がいないバス停で鳴るボタンを不審に思ったのか、運転手が怪訝な顔で車内を見渡す。近くのおじさんが「おばあちゃん押しとるよ」、「あらあ、気を付けなきゃね」。

快調に走り出した加須行きのバスは、市街地を抜けて、畑のなかへと踊り出る。平野を貫く新幹線の高架が陽炎で揺れている。左右どこまでも見えそうな高架をくぐりながら、新幹線でも通らないかなと思いながら見ていたが、ついに通ることは無かった。

まばらな民家の間を抜け、少しずつ客を降ろしながら加須市に入る。ただ合併前は旧騎西町だった地域で、旧騎西町域に入ると、立派な商店街に突き当たる。

さすがに町として独立していただけあって立派な市街地が広がっている。あれだけ乗っていた乗客も騎西町のエリアでまとまって降りていく。おばあちゃんも旧騎西町の中心部で降り、旧騎西町を抜けるころには自分一人になった。

乗ったバスは加須駅を経由して市街地の西端にある車庫まで運行する。丁寧に南口も北口も寄ってくれる親切さだが、乗り通し客にとってはそこまでしなくてもいいのに…と思う。もはや加須をまたいで乗り通し人はいないということか。いやそもそも、騎西町を抜けてからはわたし一人なのだけども。

さすがに加須駅北口からは市内利用の乗客が数人乗りこんだ。もはや直通させる意味はなにもないお客さんの動向だ。まあこれは、あれだ。運用の都合というやつだきっと。それでもお客さんが望めなさそうな加須~騎西区間も毎時2本くらいは走るのだから、きっと足を向けて眠れない。

とはいえ加須駅北口を出たバスは市街地をあっさり南北に抜け、国道に出て、国道を真っ直ぐ西へ終点の加須車庫まで突き進む。最近経路変更をして、市街地を経由するのをやめたようだけれど、一体何があったのだろうか。

加須車庫まで行ってしまうと市街地まで舞い戻るのが大変骨が折れるので、途中の「不動岡高校前」で降りる。

 

降り立ったら目の前は高校ではなく、加須警察署だった。

鴻巣からこんな加須の奥まで乗り通す若者なんていないだろうから、運転士さんには「加須警察に駐車違反の罰金でも払いに来たんだろうか」と思われてんだろうなあ……と思いつつ降りる。実態は「市街地をふらふらする」という複雑で理解しがたいものだけれど。

 

降りた瞬間、「加須駅で降りりゃよかった」と思った。暑い。とにかく暑い。

でもここまで来てしまったから、しかたない。加須駅まで市街地を巡って、駅まで戻ろう。

 

きょうはここまで。(後半は暑さにへばって写真がない!)

続いてほしい…ね。